ノートの端っこ、ひこうき雲

ひと夏の思い出、には留まらせたくない。

真面目なエッセイ

「社会不適合者」

新しい文章を書くことが出来なくなっていた。その理由は、近頃の急速な社会変動の中で、安易に言葉を書き連ねることが出来なくなっていたからというのと、ちょうどこの記事が私の書いた文章の100本目だからである。100本目に相応しいものを書こうという気概…

少しだけ早いバイバイ

私たちの世界の外からやってきたウイルスによって、突然日常が葬り去られた学生たちの声を聞いていると、日常の途方もないきらめきみたいなものを、感じずにはいられない。 いま、新型ウイルスの感染拡大を防ぐために、全国の学生たちには突然春休みが訪れて…

モラル・パニック・ユートピア

「先生、○○くんが□□ちゃんのことを無視しているんです」と生徒の一人が言った。 「それはよくないね。○○くん、何があったの?」先生は○○くんの方を向く。 彼は何も言わなかった。□□ちゃんのことを苦手に思っている彼は、何も言うことが出来なかった。無視を…

知人という貨幣

金をよこせよ、と送ってみた。送ったら満足したので、スマホを机に置いてまたパソコンに向かう。 自分の歳が無用にも積み重なっていくにつれて、机の上に平積みにされた年賀状の束が、年々厚みを失っていく。新年を祝うメッセージが電子化していくことに、僕…

高台からの強い言葉

人は、基本的に自分の経験から語ることしかできない。 そしてその経験が、自分が立っている足場が、どれくらい高いところにあるかを自覚することはとても難しい。 高いところにいると、自分の経験からこしらえた方程式を押し通しやすい。そのこと自体は誰し…

書くことは呼吸、だけど聞くことも呼吸

何か嫌なことがあったときに自分の気持ちをありのままに書いてみると、スッと気持ちが落ち着くときがある。 「言語化」による癒しの効果というのは絶大で、今まで自分が抱いていた気持ちがスルスルと言葉に変わっていくとき、ドンピシャの味のミックスジュー…

ソーダ水槽と秋の夜

どしゃ降りの雨に打たれているとき、すごくちっぽけな世界が、途方もないくらい大きな世界に繋がっていることに、気がつくことがある。 守り抜いてきた小さな自分の世界が不意に壊され、耳をつんざくような雷鳴と身を凍えさすような寒風が、自分の心の隙間を…

今、その痛みは自分だけのもの

夕立が降った後の、街を丸ごと洗った匂いが満ち始める時間。日常の生活においてもそういった時間があるように思う。雨が全てを拭い去り舞い上がった空気の粒が光と輪郭を伴って空の中で大きく弾けるとき、頬には清新な風が吹きつける。まるで街全体に風穴を…

ハッシュタグと共犯者

朝ドラを見ているのだが、流石に伝統ある朝ドラと言うべきか、ツイッター上では番組に対する感想が多く飛び交っていて賛否両論が巻き起こることも多い。毎日少しずつストーリーが進むという放映形式も手伝って、朝ドラはたくさんの人々の日常の中にすっかり…

夜間移動と実況中継

個人的に考え事をするのに一番最適なタイミングは、深夜の照明が落とされた交通機関の中である。つまり夜行バスや飛行機が一番良い。比較的どこでも寝られる体質の私は、寝ている間に連れて帰ってくれる上に価格が安い夜行バスという移動手段を重宝している…

痛みの分割払い

苦手ではないけど進んでやりたくもないことを重ねていくことは、結構心身を蝕んでいくものだと思う。 特段苦手なわけではないから、どうにかやれちゃう気がするし実際やれてしまうのだ。だけどそれをやっている自分を改めて見つめ直したときに、小さな違和感…

正しさがガラクタになるとき

このブログもおかげさまで一年くらい書いているが、書き始めた頃の記事にこういうものがある。 要約すると「理性が感性の領域へと侵食する危険性」について書いたもので、今読み返してみると初っ端から自分の思想ぶっ飛ばしてるなと思いながら、結局一年経っ…

生きがいと死にがい

「なんとなく死にたくなる」という感覚は、6月や梅雨時期にギラギラしている人以外誰もが経験しているものだと思う。「からあげ食べたいかも!コンビニに寄ろっかなー」くらいの感覚で「ちょっと死んでみようかな」って気持ちを抱くということが描かれた漫画…

君が笑ってくれるなら僕は悪にでもなる

いい言葉だなと印象に残る基準として一つ考えられるのが、「逆」なことである。 前にスピッツの「8823」について書いた時も「君を不幸にできるのは宇宙でただ一人だけ」というフレーズの破壊力を紹介した。「普通」なら幸福とか幸せとか書くところを不幸って…

例外

こんなに穏やかな時間を あなたと過ごすのは 何年振りでしょうか 落とさぬように抱いた 小さくなったあなたの体 真に分け隔てなく 誰しもが 変わらぬ法則によります 急がずとも必ず 全てが例外なく 図らず図らず 今にも終わります 波が反っては消える 宇多田…

それでも真面目で居続ける5月病患者へ

僕は筋金入りの真面目な人間である。 「僕は○○○である」の空欄に迷わず「真面目」の三文字を書き入れるだろう。 大学の講義をサボったことはない。病欠か忌引で休んだ以外は全ての講義に出席している。割と教員の要求していることに対応するのが得意だから、…

鶏肉が何の肉か分からない人を吊るし上げることについて

テレビ番組は滅多に見ることはない。それでもぼんやり見ている時にノイズが入ってくることがある。最近始まったテレビ番組で、「昭和世代が平成生まれの若者たちに“知っていて当たり前の常識”をクイズにして出題していく、世代を超えて驚きと気付きがある新…

僕たちの秘密のことば重ねてさ、そして二人の辞書を編もうね

その二人でしか通じない言葉は、とても素敵だと思う。 誰も理解できないような言葉を交わして、街の隅っこで小さく笑っているような二人はとても良い。これこそがロマンチックだと思う。場所は夜景の映えるレストランでも、どこにでもあるチェーン店でも、公…

カウンターアイデンティティ

平成という時代が終わり、新しい令和という時代を迎えようとしている。元号が変わるだけのことかもしれないが、もちろん人生で初めてのことなのですごくワクワクしてしまう。 平成という時代を振り返るほど平成を生きたわけじゃないのだけど、平成に生まれて…

横顔がとても素敵だったこと

若い人の死に、耐えられない。 今年はなんだか若い人の訃報に接することが多い気がする。突然、若い天才たちの命が奪われていく。この人が生きていたら、どれだけの名作が世に放たれていただろうかと考えると、やりきれなくなる。 天才は早死にして伝説にな…

名前

新しく出会う人の名前が覚えられない。 いや、正確には顔と名前が一致しない。 名前を覚えるのはむしろ得意で、漢字までしっかり書けたりするから驚かれるのだけど、その名前が誰のものだったのか?これが苦手だ。 名前は、いい。何故かは分からないけどすご…

大学という箱庭

大学3年生になった今、入学当時のことを思い出す。2年前、何もかもが一新された環境におかれた私は、半ばトランス状態に陥っていた。配られるビラの嵐、品もへったくれもない強引な勧誘、すべてが新しく出会う人ばかりで情報量の多いイベントの数々。どこま…

卒業前夜

今日は「卒業」を意識する一日だった。 母校は今日卒業式を迎えたという。私が直接知っている代はもう高校から完全にいなくなるという事実に頭がついていかないが、もうそこまで時間が経っているのだ。 なので卒業アルバムを開いてみたら、高校時代の日々が…

3月の色

熱海に行って、日本一早く咲くという梅の花を見てきた。河津桜も少し咲いていた。 陽の光が眩しくて画面がよく見えなくてボケているが気にしない。 今年は、なんだか春が少し早めに来たような気がする。嬉しくて仕方がない。 3月はなぜだかインフルエンザ発…

シーソーの向こう側

何か好きなものを語るとき。「○○だから良い」と一緒に何かとの比較があった場合、本当に好きなのかな?と思ってしまう。本当に好きならば、比較なんていらなくて、ただそれだけで好きだと思えるはずで、「好きなものは好き!」と言えるはずで。 好きなものを…

EMANON

昇降口の扉をガラッと開けたときの、こもったような匂いと、冬の朝に散らばっている埃と、弾けたような一筋の光。名前のつけようもないスナップ写真みたいな一瞬が、パラパラとこぼれながら続いていく。きっと切り取られて初めて写真と気づくような、壊れそ…

シンギュラリティ

正月は大体晴れている気がするというツイッターの投稿を読んで、たしかにその通りだよなとWikipediaの「特異日」を読んでみると、別に正月は特異日ではなかった。気のせいだったらしい。特異日とは、前後の日と比べて偶然とは思えない程の高い確率で特定の気…

生きているだけで

電子機器に弱い母親のスマホの写真をパソコンに取り込んでいたとき、パソコンに残っている2001年からの写真を見返していた。 アルバムに大量の写真が残っている兄とは違って、次男は残される写真が少なくなりがちで、時代の流れもあって僕の写真は主にデジタ…

普通であることと特別ハラスメントについて

人と違うことをするのが是という風潮がある。 周りに例が見られないことをやり遂げるのは労力が必要だし、やらないよりも何かをやった方が得るものが大きいということも分かる。応援されるものでもある。 でも別にそれは偉いことではない。ましてや人を見下…

スペード3

何かいい考えはないか、と言われて即座に提案できた試しがない。だから口頭での発表が苦手だし文面での回答が得意だ。 完璧主義なのだろうか。自分が納得できる結論に至るまで、絶対に未完成のものをはいどうぞって提供することができない。 いや、でも手を…