ノートの端っこ、ひこうき雲

ひと夏の思い出、には留まらせたくない。

Blanket

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夕方から楽しみな予定しか入っていない日に昼間まで寝て、だらっと過ごしている瞬間の、ゆっくりと流れている幸せをつまみ食いするような感覚が、ずっと続けばいいなと思う。

太陽の光が窓から差し込んできて、空気が粒のように輪郭を持った冬の昼下がりの中、どれだけ優しくなれば気が済むんだよって笑う。

どんな時だって自分を励まして肯定してくれる人がどれだけ貴重な存在なのか、身にしみて感じることが多い。僕には決して出来ないようなやり方でそばにいてくれる人。冬の中に突然顔を出した春の風みたいな人。

いつも丁寧に言葉を紡いでくれる。そんな人の繊細な言葉は穏やかな風を編んだような毛布になって、寒い日を越える力になる。たとえそれに守られることが甘ったれだとしても、傷つけるくらいなら甘ったれでいい。

 

名前は忘れたけどずっと前に入ったカフェで、座席一つ一つに毛布が置いてあるところがあった。クリーム色をした毛布は、オリーブ色のカーテンが付けられた窓から差し込む春の日の穏やかな西陽とよく似合っていて、世界がとけはじめるとしたらここからだろうな、というくらいの調和と温もりを生み出していた。パステルカラーの絵の具を手に入れて真っ先に描きたくなるような空間だ。

僕はそこでレモネードを頼んだ。きりりと冷えた中に蜂蜜の甘みが溶けていく。ストローをくるくると回しながら、スマートフォンで3月の予定を立てる。もう少しで遊べるよって言う人と一緒に、それはもう真っ先に遊ぶために、行きたいところを探す。ありすぎて困る。

会いたい人のことを思うだけで、どうしてこんなに幸せなのだろう。きっと、今膝にかかっているような毛布をくれた人だからだろう。言葉を紡いだ優しさはその場しのぎの毛布じゃない。いつだって、好きなタイミングで取り出して、また温もりを感じることができる。

どれだけ技術が発達して、記憶媒体が無限大に広がったとしても、送りたい言葉が紙の上に書かれて残される、そんな習慣はずっと消えないでいて欲しいと思う。形として残された言葉は、日が経てば経つほど、その純度と強度を増して水面に広がる波紋のように響いていく。その輪を作り出した小石自体はもう深く沈んで見えなくなってしまっても、ずっと。

 

カフェを出て、駅までの道を歩く。そんなに遠くに来ていないはずなのに何だか随分と歩いてきたような気分だ。明日もまた幸せでいるといいなと思いながら、スキップをするように帰る。