ノートの端っこ、ひこうき雲

ひと夏の思い出、には留まらせたくない。

青春18きっぷ2018夏 東北絶景の旅③ 〜日本一美しい電車、只見線〜

f:id:SouthernWine29:20180904080904j:image

青春18きっぷで東北の絶景を巡る旅 パート3。

前回の内容はこちら。

シリーズ一回目はこちら。

 

前回のあらすじ

いきなり予定が狂うが、気まぐれで訪れた場所に恵まれて上機嫌。

 

世界一のローカル線、JR只見線

f:id:SouthernWine29:20180904081233j:image会津若松駅。この駅からポツポツと発車しているローカル線がある。その名もJR只見線今回の旅で絶対に乗りたいと思っていた。

只見線は、福島県会津若松市会津若松駅から新潟県魚沼市小出駅までを結ぶ路線である。絶景の秘境路線として人気があり、『旅と鉄道』の「好きなJRローカル線ランキング(東日本編)」では一位を獲得しており、中国のSNS微博(ウェイボー)でも「世界で最もロマンチックな鉄道」として取り上げられている。2011年7月の新潟・福島豪雨以降、未だに不通区間(会津川口-只見間)があり、当該区間代行バスが運行している。

今回は会津若松駅から約50km離れた早戸駅まで乗車する。早戸駅到着は18:30予定。電車に乗りながら日暮れを迎えることになる。どんな絶景が僕を待ち受けているのか、期待に胸が高鳴る。

f:id:SouthernWine29:20180908150919j:image会津若松駅のホームで只見線の到着を待つ。

f:id:SouthernWine29:20180908151100j:image只見線が到着。車内は超ロングシートの2両編成だった。

ポツポツと車内に人が増えていく。思っていたよりは乗客が多いなという印象だった。なにせ運行本数が少ないからか利用客は少なくても一本の電車に集まってくるのだろう。結構学生が乗ってくる。只見線沿線には学校がいくつかあるらしく、そこの生徒さんだと見受けられる。

定刻になり只見線が走り出す。ちゃんと走り出したことに謎の安堵感。

前に座る学生がリュックからノートを取り出した。ノートはオレンジ色の文字がお経のようにビッシリ書かれていて努力の跡が伺える。その隣の女性はアイスの実を袋から取り出しぶどう→オレンジと二連続で食べたあとに、袋からラテを取り出して飲んでた。無限に飲食物が出てくるビニール袋。鋼の胃袋。

左に座る親子連れ、子供が終始ハイテンションでお父さんに絡んでいて笑いそうになった。そして電車が進んでいくと右に座っていた男子学生が電車を降りたのだが、車内にこんな物を残して去っていった。f:id:SouthernWine29:20180908152339j:image

右にこれが鎮座している状況で左のハイテンションボーイに笑わされそうになる。「笑ってはいけない只見線」が幕を開けた。

なかなかユニークな乗客が多い電車である。

 

駅をいくつか進んでいくと乗客の数もまばらになり車窓から見える景色も変わってくる。f:id:SouthernWine29:20180908152558j:image太陽も顔を覗かせ、夕暮れ時が近づいてくる。f:id:SouthernWine29:20180908152808j:image

この景色を見られただけでも儲けもんだが、ここから更に絶景が広がるという。否応無く気持ちが高まる。

ところで只見線はやたら「会津○○」という駅名が多い。全36駅中17駅の名前に「会津」がついている。会津推しがすごい。その中で僕が一番印象に残った駅名は「会津柳津(あいづやないづ)」である。口に出してみれば分かる通りありえないくらい語呂が良い。シルベスター・スタローンとか墾田永年私財法が好きな僕にとっては自明に好きな言葉である。会津柳津赤べこ発祥の地だという。赤べこの頭を押したときのリズミカルな挙動が僕は好きなのだが、地名までリズミカルだったとは。f:id:SouthernWine29:20180908171834j:image

 

電車が進んでいき、だいぶ日が暮れ始める。f:id:SouthernWine29:20180908172145j:image昼間の雨の影響か、かなり霧がかかっており、幻想的な空間を作り出していた。霧の向こうから何かがやってくるようである。

川の上を通るところでは、f:id:SouthernWine29:20180908172249j:imageこのような非日常的な写真を撮ることができた。水面に山が鏡のように映し出されている。僕以外の乗客は地元の人々だったのか、車内で熱心に写真を撮り続けているのは僕だけであった。このような景色を日常的に見られるのは羨ましい。紅葉の季節とかどうなっているのだろう。

 

夜の早戸駅周辺を散策

18:30、目的地の早戸駅に到着する。f:id:SouthernWine29:20180908173216j:imagef:id:SouthernWine29:20180908172759j:image電車を降りると紺色の空が僕を包み込んだ。f:id:SouthernWine29:20180908172847j:image絵の具でラフに描いたような雲と線路の向こうで光る水鏡、赤く灯る電車の尾灯がこの上なく美しいお気に入りの写真である。

この駅で降りたのは僕だけであり、走り去っていく電車を見送っているとすごく心細い気持ちになった。次にこの駅に電車がやってくるのは一時間後である。

 

夜を迎えた山の中で、たった一人早戸駅周辺を散策する。早戸駅を僕が選んだ理由はその駅舎である。f:id:SouthernWine29:20180908173458j:imageこのとても小さな建物が早戸駅の駅舎。何やらRPGで出てくるセーブポイントみたいな雰囲気を醸し出していた。奥にかかっている白い靄も手伝って、ラスボス前の静かな空間を想起させる現実離れした空間であった。f:id:SouthernWine29:20180908173843j:image駅舎にはちゃんと駅名が書かれている。

会津若松行の終電が一時間後であるため、あまり時間がないのだが早足で散策。f:id:SouthernWine29:20180908174046j:image線路を照らす光から離れて山の中へ向かう。f:id:SouthernWine29:20180908174209j:image山を貫通するトンネルを発見。こういうのめちゃめちゃ興奮する。自然の中に人工物がぶち抜いてるの大好き。

このトンネルの向こう側に早戸温泉「つるの湯」があるらしい。トンネルを通る車以外人気を感じず寂しくなってきた僕はトンネルを歩いていく。f:id:SouthernWine29:20180908174516j:imageしかし夜のトンネルの中を一人で歩いていくのは結構怖い。車が通行するときトンネル内に音がかなり反響するのであるが、そのせいでどっちから車がやってきてるのか分からないのが妙に怖かった。しかもトンネルは曲がっていて前が見えないので、「もし今前から高速で獣が迫ってきても気づかないまま食べられるだろうな」という洒落にならない想像をしながら、トンネルの出口までの距離も知らないのでビクビクしつつ歩き続けた。

f:id:SouthernWine29:20180908175105j:image無事トンネルを脱出し、山の中をうねる車道を歩いていると看板が見えた。温泉に入っている時間はないので宿の外装だけ見て引き返す。f:id:SouthernWine29:20180908175218j:image暗すぎてよく分からないが、確かにここに人がいるのだという事実を確認して安心。中から地元のおばちゃんが出てきたときは人の存在を久しぶりに認識して泣きそうになった。

終電を逃すといよいよ洒落にならないので早戸駅まで来た道を引き返す。

トンネルはやはり怖いので、どうせ車以外人も通らないだろうとトンネルの中でサザンオールスターズの「勝手にシンドバッド」を歌いながら歩いた。声がトンネルの中で響く。野外で歌を歌うという都会では絶対できない行為に一抹の背徳感を覚える。

f:id:SouthernWine29:20180908180151j:image早戸駅に到着。日は完全に暮れて辺りは真っ暗である。ここでたった一人で電車を待つことになる。

電車まで少し時間があるので駅舎の中に入ると、ベンチの上に一冊のノートが置いてあった。f:id:SouthernWine29:20180908180302j:image何かと思って表紙を開けると、今まで早戸駅に来た人たちが記念に書き残した言葉たちが綴られていた。紅葉の季節に親子連れで来た人、僕と同じように青春18きっぷではるばるやってきた人、バイクを東京から飛ばしてここまで来た人、様々な人々の存在をこのノートを通して時間を超えて感じることが出来て、不思議と孤独感は消えた。僕が訪れた9月1日にも2人がここを訪れていたようだ。僕もボールペンを手にして一言書き残しておいた。f:id:SouthernWine29:20180908190059j:image9月最初の日だったので「8月と書き間違えなかったー!うぇーい」と調子に乗っていたら日にちを書き間違えるという謎のミスを犯す。

ノートをパラパラとめくりながら読んでいるとf:id:SouthernWine29:20180908190333j:image率直なコメントが存在感を放っていて笑ってしまった。

早戸駅に来た人は是非この「早戸駅ノート」をめくってみてください。僕の旅の痕跡が残っています。

f:id:SouthernWine29:20180908190532j:image駅舎の中に貼ってあった時刻表。少ない。会津若松行きの終電を待つ。f:id:SouthernWine29:20180908190707j:imageふと、「このまま電車が来なかったらどうしよう」と、暗闇の中一人で立っている心細さを感じていた。音楽を聴きながら気持ちを紛らわせる。

すると、f:id:SouthernWine29:20180908190835j:image

キタァァァ!

人生の中でも随一の「忘れられない光」になるだろう。完全に「となりのトトロ」でお父さんをバス停で待つサツキの気持ちだった。

電車には僕を含めて4人しか乗っていなかった。車窓も真っ暗なため景色は見えない。本を読みながら来た道を帰っていく。

 

f:id:SouthernWine29:20180908191115j:image

会津若松駅。駅の周りにも建物がいっぱいあり、めちゃめちゃ都会に感じた。あらかじめ予約してあったホテルに向かって旅の一日目を終えた。

f:id:SouthernWine29:20180908191212j:imageホテルについていた居酒屋で食べたあさりの酒蒸し。美味!

 

 

こうして東北絶景の旅の一日目が終了しました。波乱万丈でしたが何だかんだでとても良い一日になったと思います。

 

さて、次回は二日目ですが一日目を上回る衝撃的な出来事が起こります。東北旅行宮城編、乞うご期待!