ノートの端っこ、ひこうき雲

ひと夏の思い出、には留まらせたくない。

映画『未来のミライ』の感想【ネタバレなし】

細田守監督作品『未来のミライ

先日見てきました。細田守監督作品は欠かさず見ているので、この映画の公開が発表されたときからずっと楽しみにしていました。

「未来のミライ」予告 - YouTube

 

しかし、この作品が公開されてみると賛否両論の嵐。「期待していたのにガッカリ」、「今までの細田守はどこへ行った」という声もあるし、「私はこの感じも好き」、「親世代にしか響かないかもしれない」という声もあります。私はどっちの意見も分かるような気がします。

私の感想の結論から言うと、「今までの細田守を期待していると肩透かしを食らうけど、これはこれで好きだな」です。

 

今回は、今までの細田守監督作品と比べて何が「ない」のかを中心に感想を述べていきたいと思います。

ネタバレはないつもりですが、少し全体の作品構造について言及した箇所はあるので、まっさらな状態で見たいって人はここで戻ってください。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

①「起承転結」ではない

今までの細田守監督作品、「時をかける少女」や「サマーウォーズ」、「バケモノの子」などは描かれている世界も壮大だし、明確なストーリーに乗せてドラマが展開されていくため、まさに映画を見ているときの緊迫感、ワクワク感を十分に感じられるものが多いです。起承転結がはっきりしている作品が多いですね。

しかし『未来のミライ』は起承転結が無いに等しいです。ガッカリだと言っている人は多くがこの意見を持っているのだと思います。今までの監督作品に見られたスリリングな展開はあまり見られません。割とゆったりと、しかもかなり小規模な世界でストーリーが進行していきます。

私は、この作品は連作短編集だなという感想を持ちました。

基本的に主人公のくんちゃん(4)が、生まれてきた妹、未来(ミライ)ちゃんに親の愛情を奪われて嫉妬してゴネる度にタイムスリップした世界を冒険するという話の繰り返しです。その中で未来の高校生にになったミライちゃんなどの、くんちゃんの家族が出てきます。彼らとの出会いの中で少しずつくんちゃんは成長していく、言ってしまえばそれだけの話です。ちょっと雑にまとめた感はあるけど。

世界を救うことも、派手なバトルシーンも今回はありません。無理矢理今までの監督作品で近いものを挙げろと言われたら『おおかみこどもの雨と雪』ですが、こちらは親である主人公の「花」にスポットライトが当たっているのに対し、『未来のミライ』は子どもである「くんちゃん」目線で物語が展開している印象を受けました。だから話の世界はすごく小規模だし、くんちゃんの身の回りで起こるファンタジックな出来事に対する説明はありません。サマーウォーズのOZ(オズ)や時かけタイムリープの説明みたいなものがありません。終始子どもの空想のような世界が広がっていきます。

 

 

②「ファンタジー」ではない

ファンタジックな出来事が起きるとは言いましたが、この作品はファンタジーではないと私は思います。先程も述べましたがこの作品の根底にあるテーマは、「兄の妹に対する嫉妬」なので結構リアル寄りです。劇中ではくんちゃんが泣きわめくシーンが多くその声が結構耳に刺さるので、こういった子どもの声が苦手な人は見るのをお勧めしません。

「お兄ちゃんらしくありなさい」という両親の要求やくんちゃんに対する態度も結構リアルで、子育ての大変な面が押し出されています。ファンタジーを織り込んだリアルな作品だという印象を受けました。

あと、割とホラーなシーンもあって意外にも小さい子どもの鑑賞はよく考えた方がいいと思います。大学生の私ですら少しびっくりしました。

 

 

③「未来のミライ」ではない

どういうことかというと、この作品のタイトルは『未来のミライ』ですが、内容は「未来のミライ」ではありません。主人公はあくまでくんちゃんであり、ミライちゃんはサブキャラクターに留まります。ミライちゃんとの壮大な冒険物語を見たい!って人は「あれ?」と思うでしょう。

この作品の内容はどちらかというと「過去の家族」が大きくクローズアップされている印象を受けました。「未来のミライ」というタイトルはキャッチーさを先行したようで、あまり的確なものではないと思います。そこを注意して観れば、大きな肩透かしは食らわないでしょう。このへんは予告編の作りが誤解を招くなあと思ったり。

 

 

今までの作品に比べて「ない」ものが多く、細田監督の異色作であることは間違いありません。でも、失われていないものも沢山あります。

まず、随所に挟まれるファンタジックなシーンの映像美は今回も健在です。劇中に、東京駅をイメージしたと思われる近未来的な駅のシーンが出てくるのですが、その駅のデザインと雰囲気が私のツボでした。よくこんな世界観やデザインを思いつくなあと目を奪われるようなシーンは今回も沢山ありました。OZのような監督お得意のデジタル空間は今回も登場しますからご注目を。

また、主題歌が山下達郎さんなので、サマーウォーズを見たときのような「夏」感が今回も存分に楽しめます。ブレないですねこの人は。

 

 

というわけで『未来のミライ』、今までの細田守監督作品とは別物の作品だということを念頭に置けば、違った楽しみ方が出来ると思います。スリリングな展開を求めている人にはオススメしませんが、「ちょっと一息つくような作品を見たい」という人にはきっと残るものがあるでしょう。

私は今までの作品が好きで、今回も「時をかける少女」が不動の一位を保つことになりましたが、未来のミライも「これはこれでアリだな」と思える作品でした。監督のやりたいことを詰め込んだような今回みたいな作品が一つあってもいいと個人的には思います。

 

まあ、次回作は今回の反動として時かけを超えるような青春度数の高い作品をひっそりと数年後に期待しています。近年、監督の作品は家族路線にシフトしているようなので望み薄ですが…

 

読んでいただきありがとうございました。